2017年3月20日月曜日

ディオバン問題の判決に思う

3月16日ディオバン問題の一審判決が出ました。ディオバンを巡る医師主導臨床研究におけるデータの改ざんが薬機法66条に基づく誇大記述・広告違反としてノバルティスファーマ元社員と両罰規定に置いてノバルティスファーマが起訴された事件です。その判決は会社、社員共に無罪でした。

http://www.qlifepro.com/news/20170317/diovan-problem-first-instance-judgment-both-novartis-and-former-employees-innocent.html

やはりこの事件については今の自分の考えを書いておくべきではないかと思っています。この事件に対する考え方は人それぞれかとは思いますが、私なりの見解はきちんと持っておくべきだと考えています。私の考えが正しいとは全く思っていませんが少し整理するためにもブログに書くことにしました。

私の感想としては起訴の事由に対して有罪としてもおかしくないと考えています。
リンク先の記事より、
「第66条で言及する「虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布」とは、
(1)医薬品の購入意欲を喚起・昂進するもの
(2)特定医薬品の商品名が明らかにされている
(3)一般人が認知できる状態にあるもの
の3要件すべてを満たすものと指摘。
辻川裁判長は今回のKHS論文について、このうち(2)、(3)の要件を満たすものの、査読のある学術誌への論文掲載である以上、白橋被告による故意の改ざんやノバルティス側が論文を販促に利用しようとしていた意図があったとしても、(1)の要件を満たすとは言い難いことから、第66条違反に当たらないとの判断を示した。」

この裁判長の判断が今回の起訴内容が66条の違反であるとはならなかっただけと私は考えています。データの捏造はあったと認めれられていることからすると、裁判ではシロであっても本質的にはクロ。

もう少しいうと、この研究はそもそも医師主導臨床研究です。本来であれば研究の責任は医師側にあります。そうなると研究の責任者に何も責任はないのでしょうか。私はそこに引っ掛かりがあります。現在の法律では企業側には承認審査、再審査の段階でGVPやGPMSPがありますが、医師が自ら行う臨床研究には企業の責任は本来ありません。研究者のデータの捏造に関する規制は今の所なく、法律にないものは裁けません。

この件で私が一番に感じていることは医師主導の研究がいかにずさんかということです。また研究責任者は研究者としてのプライドはないのか?ということも言いたいと思います。研究とは、多くの過去の研究の積み重ねをしてその分野の発展に貢献することだと私は考えています。自分の欲で仕事をするのは二流の研究者と思っています。データの捏造をする研究者は三流以下ではないでしょうか。

ノバルティスファーマ側はもちろん悪いですが、これに関わった全ての研究者もクロです。今後、検察が上告するかどうかは現時点では不明です。まだこのモヤモヤ状態は続くと思われるのでちゃんと行く末を見ていきたいと思います。

ここからは、もう少し自分の感性の言葉で書きたいと思います。少し昔を思い出しながらディオバンを述べます。

エビデンス花ざかり時代の到来(決してEBM時代とはいいません)+日本の新薬に飛びつく風潮がこのディオバン問題のベースにあると思います。

ディオバンが発売されたのは私がまだMRをしていた頃になります。あの頃はエビデンスという言葉が流行り出して、大規模スタディが華やかに外資系の製薬企業のパンフレットに踊っていたことをよく覚えています。真っ赤なパンフレットでとても印象的でした。

当時はノルバスクが高血圧治療ではダントツに使われており、ARB(アンジオテンシンⅡ阻害剤)は価格も高くノルバスクのようなキレのある降圧効果がないという評価でした。ARBの中でもディオバンは比較的降圧効果があるね、という声が聞かれる程度でした。臨床データではありませんでしたが、動物実験等からの薬理作用のメカニズムも納得のいくARBの中ではいい薬だと私は思っていました。

それでも海外では臓器保護といったらACEIなのに、なぜ日本では高いARBを使うのかという疑問を当時も持っていました。製品の戦略的には、降圧効果ではカルシウム拮抗薬にはかなわないので、臓器保護作用を謳ってきたのがACEI(アンジオテンシン変換酵素阻害剤)でした。ARBは似た系統の薬なので臓器保護作用がある程度期待できると思うが、ACEI以上の臓器保護作用についてそれを上回るといったデータを私は知りません。ちゃんと文献を検索してレビューしていませんが、多分ないと思います。これは日本の保険制度と医師の処方選択の問題です。海外のデータを見れば日本だけいい結果が出るなんて、おかしいと思わない方がおかしいです。

私のモヤモヤは、企業も悪いが医師側の責任もきちんと問題だったことを明らかにすることができていないことです。そんなにお金さえ貰えばホイホイ動くのが医師なんでしょうか。動かす製薬企業が悪なんでしょうか。どっちも悪いのに片方だけというのが私の納得のいかないところです。

データの不正は絶対に許すべきものではありません。なぜならば患者の生命に関係することだからです。また研究として考えた時にも日本の研究のレベルの低さを世界に晒す行為であり、法律がないなら自分たちで正しい方に向かう動きがあってしかるべきではないかと思います。

自分のブログなので、好きなことを書かせてもらいました。

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