去る8月3日、4日は「薬歴フェス~薬歴(やくれき)で患者との対話を見直そう」でした。今回も例に漏れず完全に巻き込まれました。はい。
そもそも薬歴って何?というところなんですが、私は薬歴の書き方やツールは正直、全く興味ありません。それはつまり、医師が書く患者の診療履歴がカルテであり、薬剤師が書く患者との服薬指導歴が薬歴だからです。また看護師も同様に看護記録を書きます。そう考えると医療職ではない私が記載内容について興味を持つものではないことは全く不思議ではないと思います。それでもこの企画に加わった理由は、薬剤師と患者のかかわりを変えていく必要を感じているからです。
薬歴の法的根拠は現在ありません。正確にいうと確認事項に関する法的義務はありますが、記録と記録の保管に関しては存在していません。調剤録(調剤した記録)は法的根拠と共に義務も生じます。薬歴に根拠があるとしたら薬剤服用歴管理指導料を算定のエビデンスとです。そうなると保険診療をする以上は薬歴は書かなくてはなりません。
これが薬剤師法の改定で、調剤時には、情報提供に加えて必要な薬学的知見に基づく指導義務になりました。言った、言わないのトラブル回避のためにも記録は残しておくべきと2日目講演の中外合同法律事務所赤羽根弁護士は話しています。講演の中でも現在審議中の改定薬機法が国会を通ったら薬歴の法的根拠がでてくるかもしれないとの話もありました。
そのような薬歴ですが、そもそも診療報酬の算定のために記録を残すというのは薬剤師としてどのように患者と向き合っていくかという話とは遠くなります。
それを紐解くのが医薬分業の歴史において江戸時代や明治維新以降の薬剤師と医師との関係を探っていかなくてはなりません。その象徴となるのが芝八事件です。
我が国の医師の始まりは薬師(くすし)とも呼ばれ、薬を出すこと(処方)が仕事でした。彼らの収入源は薬を売ることであったため、医療は医師と患者の知識勾配が極めて高く、患者はそれに従うしかありませんでした。そのため医師がお金儲けに走ることもあり、患者にとって不必要な薬を買わされるということもありました。そうならないためにも薬の専門家の介在が必要であるということで明治7年に医政がひかれ、このとき医薬分業がスタートしました。しかしこのとき処方権を医師が手放さないということもあり、なかなか医薬分業はすすみませんでした。ちなみに欧米ではもともと医師と薬剤師は分かれており、医薬分業という概念はありません。そこから医師会と薬剤師会との医薬分業をめぐっての戦いの歴史がいまだ続いているといっても過言ではないでしょう。
その代表的な事件が芝八事件なのです。これを細かく話をすると大変なことになるのでご興味のある方は前夜祭スピーカーであるNPO法人医桜の溝口博重さんのお話をぜひ聞いてください。
この話を聞いて思ったのは患者の健康な生活を守るために薬剤師は存在しており、本当だったらもっと医師と戦っていなければならないはずが、医薬分業が診療報酬上でメリットが出るようになってからどうも処方箋を流してもらう関係に甘んじているようにしかおもえなくて仕方ありません。
先ほどの法的根拠の話も絡めて考えると、このままだと保険診療に依存しているだけの存在と言われても仕方なくなってしまいます。それは患者の声が「薬剤師さんって何してくるれる人なの?」「お薬を処方箋と引き換えにだすだけでしょ」という声があちこちで聞かれるからです。
だからこそ薬剤師が薬学的見地から患者にとって本当に必要な薬物治療が何か、そのために患者とどのような対話をして副作用を最小限に効果を最大にする方法を患者とともに考えていくべきなのです。その記録が薬歴であるべきと私は考えます。
溝口さんの講演の中でも「欧米でも医師に薬の事をまかせるとろくなことがないと思われているから医薬分業なんていわなくても、それぞれの専門性で仕事をしている」と話していました。
今回は患者協働の医療を推進する会(AMCOP)の桜井さんにもご登壇いただきました。彼はHIV陽性患者の当事者であり医療コミュニケーションについても研究をしています。その彼の言葉で印象的だったのが、「患者の立場からすると、処方されている薬があきらかにHIVの薬で使われている医療制度だってわかるはずなのに、ピントのずれたことをすすめてくることがある。過去のやりとりを薬歴に書かれていればそんなことはないはず」当事者の話は説得力があります。薬歴を他の業界でいうと顧客カードと考えればサービス提供者としての対応が変わるのは当然ですよね。そんなことからも薬剤師が何をすべきか、それをどう履歴に残すかということは課題が残っているということになります。
どんぐり未来塾の佐藤ユリさんの話は副作用を薬学的見地から考え、服薬指導に生かすということをお話いただきました。患者も重篤な副作用がでるまえにきちんと説明してもらえば出始めにきづくことができます。
病院とまちの調剤薬局とどのような情報をやりとりするべきかを総合相模更生病院の病院薬剤師江口真由さんにお話いただきました。
薬歴ベンダーであるKAKEHASHIの中尾さん、グッドサイクルシステムズの遠藤さんからも薬歴に対するそれぞれの思いを語っていただきました。どちらも薬剤師が患者さんと向き合うためのサービスの一つが薬歴システムであるというもとにシステム開発をしています。こういった議論の場に出てきていただいて感謝です。
シンポでは杏林大学薬剤部の若林進さんにはお世話になりました。
前夜祭に出展いただきました、大洋製薬株式会社、株式会社MOTIMA、株式会社グッドサイクルシステム、株式会社カケハシの方々、ご協力ありがとうございました。
何よりも企画者を本当に支えてくださっていたのは実務薬学総合研究所のみなさんです。彼らの支えがなければこの会は成立しませんでした。細かい配慮をくださいましてありがとうございました。
また当日参加者として来ていただいた方にも本当に感謝です。ぜひこの話を広げていってほしいと考えています。
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