2017年6月4日日曜日

僻地の医療


岐阜県揖斐川郡揖斐川町の谷汲(たにぐみ)中央診療所に突撃取材しに行っていきました。

今回のご縁は毎年参加させていただいている地域医療振興協会のシンポジウムで同じグループになった診療所の医師である西脇先生です。
一緒のグループでお話をしていた時に「高齢化が完全に進んでしまったところはもう世の中で言われるような話はとっくに終わっちゃってるんだよね」という言葉が印象的で、その言葉が出てくる背景が知りたくて気候のいい時期にお邪魔させてもらったということです。

私の出身は名古屋なので岐阜は比較的近いのですが、名前は知っていてもあまり馴染みのない揖斐川町です。揖斐川はもちろん知っています。木曽三川(木曽川、長良川、揖斐川)の一つでとても暴れ川です。治水には苦労したそうですが、川の恵はたくさんあります。

診療所訪問の前日に民俗博物館の見学もして来たのですが、この辺は京文化も混じっている印象です。


また車で走ると神社、お寺が隣り合ってあちこちにあったり、その神社・お寺もちゃんと手入れをしています。なんとなく住んでいる人の気質を感じます。

揖斐川町のお寺は華厳寺(けごんじ)があります。華厳寺は西国三十三番満願霊場ですので多くの人がここに訪れたのでしょう。このお寺の参道のまちなみは昔の賑わいを想像させます。それを保存するような動きもあるようです。(同行した人はこれが見たいと力説してました)他にも頑固一徹の語源となった稲葉一徹のお墓とかも見てきました。

翌日に目的の診療所訪問です。宿泊のホテルを大垣にしたので朝一は大垣城周辺の散策をして、そのあとは岐阜のモーニングを食べました。(岐阜も喫茶店文化です)


診療所自体はどこでもある僻地の診療所です。すぐ脇には社協や消防署の分団、薬局があり、国保診療所の風景とほとんど同じですね。特別なものはありません。ここは院外薬局なので院内には最低限必要とする医薬品しか置いてありません。しかしよく見ると麻薬等の金庫らしきものがあったり、調剤用棚もあるので院内調剤のなごりはあります。





電子カルテも見せていただきました。カルテは久瀬診療所と春日診療所と繋がっておりどこでも見られるようになっています。残念ながらまだ画像は繋がっていないそうですがいずれのタイミングで繋げる計画だそうです。

午前と午後の診療の合間に薬剤師さんとの打ち合わせです。

とても自然にお話をしています。
「疑義照会も結構するのですか?」
「電話でよくしますよ。込み入った打ち合わせはこんな感じに会って話をするんです」
「どのくらいの頻度で打ち合わせするのですか」
「一日に一回は必ず会いますね」

普段からよく話をしているのが会話のやりとりを聞いていてすぐわかりました。

下の写真は患者のふりをしている同行者です。


以前いた医師が外科だったということでその名残の無影灯です。取り外しするのも大変なのでそのままになっています。以前は有床診療所でしたが、現在は無床診療所として届出をしてありますが、その名残もありました。


いぼをとったりもするそうで、その時使うガスはありました。レントゲンもエコーもありありましたがどこにでもあるような普通のものでした。


「このくらいの設備があれば、ここの診療はほとんどのことが回るんだよね」とおしゃっていました。これは総合診療医ならではの発言だなって思いました。ちょっとした傷なども縫ったりするし、火傷もイボも診ちゃう。

ちょっとだけ突っ込んだ質問もしてみました。
「急性心筋梗塞だと思われる患者が来た場合はどうするのですか?」
「ここから20分もあればカテのできる病院にいける。受け入れ先が決まっている。」
確かに渋滞もないから行けちゃう、、、

「それにそんなに頻繁に患者は出ないよ」
え? これが一番目から鱗でした。

「人口3000人のところでこの診療所で対応の必要なのは年間数例。もちろん土地によると思うけどね」
うーん。

発症率を地域ごとでみてみないと正確なことは言えないけど、地域住民の検査値データや発症率などから予測される必要な設備ってあるよねって改めて思いました。必要なものってなに?なんて考えてしまいました。

午後はグループホームへ同行しました。ここは18名の利用者さんが暮らしています。


ここで気づいたことは利用者さんたちがとても穏やかなことです。
ここでもちょっと聞いてみました。
「どこかに出て行っちゃうことってないですか?」
「以前あったけど近所の人が見つけてくれました」
ここは認知症の患者さんの一人歩きが重大問題ではないんですね。確かに閉じ込めてという感じもなく、出入り口も普通の鍵しか付いていません。

ここの施設長さんは劇団天使の笑顔をやっており、いびがわ健康福祉フェアで認知症啓発の公演もされている方です。
なんだか、谷汲の人たち面白いかもです。面白い方に出会ってしまいました。
https://www.youtube.com/watch?v=55widpc76XY&feature=share

その次は在宅訪問診療です。脳梗塞の既往歴のある方でした。


診察の結果、脳梗塞ではなく整形的な問題だとわかりその場でカルテに記載し、関係するところへ電話連絡をしていました。看護師と一緒に訪問するのでカルテを書いたり診察している最中に看護師は血圧や酸素濃度などを測りつつ患者さんといろんな話をして情報をとっていました。カルテと繋がるパソコンは普通のパソコンで通信も普通のルーターでした。やっぱり外でカルテが診られるのはいいですね。

ここの診療所のもう一ついい点は診療所の医師が固定でないことです。カルテが繋がっているのはそのためです。メインはあっても3つの診療所をローテーションして、夜間の対応も順番に回しています。そうしてちゃんと医師が休みを作ることができるようになっています。これは僻地の医師がバーンアウトしない仕組みだと思います。いくら使命感を持って僻地の診療に入っても24時間365日頑張り続けるなんてよっぽどのスーパーマン。休みは必要だと思います。それが仕組みとして回れば僻地診療も誰かの犠牲に成り立つものではなくなります。

揖斐には決して医療が潤沢にある訳ではないけど、ちゃんと連携もしているし患者さんもホームの利用さんもイライラしている様子はない。土地柄なんだろうか、それとも私がほんの短い時間しか滞在していないからだろうか、都会やその近郊で見られるような尖った感情とか暗さは感じられない。無いなら無いなりにみんなで協力するように動いている。診療報酬制度などの枠組みはあるけれど、それでもそこにある暮らしを大事にしながら生きている。

それに対して都会はどうだろう、あんなにたくさんの最新機器がいっぱいあるのに、医者も数は沢山いる。本当に色々根本から考えなくてはいけないと思いました。それは医療供給体制だけでなく、一般の市民があまりにも不必要なものまで欲しがっていないだろうかという自戒も必要です。

多分、私には見えないここでの苦労も絶対あると思います。たぶん次の問題のステージにチャレンジされているのでしょう。でも知恵を絞ってできることを考える、こういった取り組みはぜひ他のエリアもそれぞれのある資源の中で頑張ることの大事さを教えてくれると思います。

本当に揖斐のみなさまありがとうございました。感謝です!



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